ねね |
「わかりました〜。ムラサメさん、『「とかとか星人』ですう〜」 |
ウスイ |
「『とかとか星人』?」 |
ねね |
「『とか』ばっかり〜言う人」 |
ウスイ |
「なるほどね。私も彼女が『フリーターとか』って言うから、フリーター以外のこともしていたのかって思ったし、『花屋さんでバイトとか』って聞いて、他のバイトもしたのかと、思ったのよ」 |
ねね |
「ふつう『とか』って〜、『テニスとか、バスケットとか、ボールを追いかけるスポーツが好きです』とか〜『スミレとかタンポポが咲いてるよ』とかって、同じような種類のものから例としていくつかを並べるものじゃないですか」 |
ウスイ |
「そうね。ねねちゃんの説明は合ってるし、ねねちゃんが今使った『とか』の使い方は正解ね」 |
ねね |
「ですよね〜センパイ〜。結構、使う人、多いんですよ〜、これ。耳障りですよね、『とかとかとかとか』って〜」 |
ウスイ |
「でも、ねねちゃんもこの前、私に『センパイは当分、結婚とかしないんですか?』って言ったわよ。私、覚えているんだけど」 |
ねね |
「こりゃまた、失礼しました〜。う〜ん。『とか』って言わなくてもよかった、っていうか、『結婚しないんですか?』が正解ですもんね」 |
ウスイ |
「ねねちゃんもそうだけど、なんで『とか』っていう人、多いのかしらね?」 |
ねね |
「あ、ウスイセンパ〜イ! 聞いてくださいよ。あの『とかとか星人』がね〜」 |
課長 |
「?」 |
ウスイ |
「派遣のムラサメさんです」 |
ねね |
「ロッカーで〜、彼女に『とか』って耳障りだから言わないほうがいいよ、ってアドバイスしたんですよ〜。そしたら、彼女、憮然として無言で帰っちゃったんですよ〜」 |
ウスイ |
「あら、ケンカ?」 |
ねね |
「ううん、彼女オ〜、結構、怒りっぽいみたいで…」 |
課長 |
「ちょっと待った。ムラサメさんは、憮然として帰ったって言ったよね」 |
ねね |
「はい」 |
課長 |
「もしかすると、怒ってたってこと?」 |
ウスイ |
「課長、憮然としてたっていうんだから、そんなこと当たり前…」 |
課長 |
「憮然という字をよく見てみなさい。りっしん偏に無という字、これは『心がなくなった状態』つまり、落胆して、あるいはビックリするほどあきれはてている、ってことを言うんだ」 |
ウスイ |
「え、ウソ!」 |
課長 |
「ウソじゃない。憮然を言い換えるなら『悄然(しょうぜん)』『呆然』ということになる。辞書を見てみろ」 |
ウスイ |
「でも、さっき読んでた新聞にはこうありましたよ。えーっと『首相は報道陣からの質問攻めに憮然とした表情を浮かべた10日の夜とはうってかわり、終始、にこやかだった』…」 |
課長 |
「そう。新聞や小説でも、最近は誤用が多くて、ときどき消費者センターに抗議したくなることもあるよ」 |
ウスイ |
「でも、言葉は生き物っていうじゃない…。もし、本来の意味からしたら誤用だとしても、みんながみんな、本来の意味と違った意味でその言葉を使っていて、意思が通じあえるなら…。それを誤用だって、決め付けていいのかしら…」 |
課長 |
「その使い方がどこまで認知されているかによるな。ところで、ウスイくん。さっきは元気なかったけれど…」 |
ウスイ |
「いえ、別に。あ! ねねちゃん、私のこと『結婚とかしないんですか?』って聞いたわよね。ということは…。私に結婚の話をふると、角が立つって、思ってるんじゃない!」 |
ねね |
「センパ〜イ! そ、そんなことなんて、ありませ〜ん!」 |