課長 |
「おお、ねねクン。早かったな」 |
ねね |
「ええ、『はやメシ』ですから。そこの立ち食いそばで〜、サクサクっと」 |
課長 |
「あ、なるほど、『はやメシ』って読むのか、あのボードは」 |
ねね |
「そうですよ。『はやメシ』『はや食い』『はや寝』とか、言うじゃないですか」 |
課長 |
「そうだな。しかし、厳密に言うとだな…」 |
ねね |
「課長、すみません。ちょっとフロア行かなきゃいけないんでえ…」 |
ウスイ |
「ねねちゃん、いまやうちのエースね」 |
ねね |
「とんでもないですう。いってきま〜す」 |
ウスイ |
「課長、今、ねねちゃんに話そうとしたのは、どんなウンチクなんですか?」 |
課長 |
「うん。『はやナントカ』という場合、普通は「早稲田」の『早』の字を使うもんだろ」 |
ウスイ |
「『早い』は時刻や時間が前だったり、『まだ』って言う場合だったり、ぐずぐずしてないって言う意味に使うんですよね」 |
課長 |
「そう。『速い』は主に『スピードがある』という意味で使われるんだね。『早稲田』の『早』に比べて、使われる意味の幅が狭いわけだ。ただ、この『早』と『速』の使い分けは、一筋縄では行かない場合が多いんだ」 |
ウスイ |
「だから、たいてい『早』で済ませてしまっている、ということ…」 |
課長 |
「うん。繰り返しになるけれど、『はやナントカ』という場合は『早』を使う例が多いよな。『五月雨を集めて早し最上川』とか、ね。これも本来は『速』を使うほうが適当かもしれないね」 |
ウスイ |
「『速』より『早』のほうが、単に好まれたのかもしれませんね」 |
課長 |
「古くは『早』が好まれ、『速』は敬遠された、と推測している学者もいるんだ。そんな単純なものか、とも思うがね。「奥の細道」に引っ掛けて言うわけじゃないけれど、言葉の奥深さを物語っているよな」 |
ウスイ |
「それはそうと…。先日からご相談したいお時間、いただきたいとお願いしていたのですが…」 |
課長 |
「ああ、そうだな。ちょっと、食事してきてからでいいかな。『早メシ』ならぬ『速(そく)メシ』に行ってくるよ」 |