ATOK.com: |
『明鏡国語辞典』は、ほかの辞典とはどのような違いがありますか? |
矢澤真人: (以下、矢澤) |
編集委員によって目指したことはまちまちですが、私が目指したのは「パソコンを使っているときに側に置いて、必要なときに引く辞書」です。
例えば皆さんは、パソコンで日本語を打っていて、同音異義語に迷うことがよくあると思います。「杯をあける」のときの「あける」はどんな漢字が正しい? 「たんけん」は「探検」「探険」どっち? というような場合です。変換候補は出てきますが、どれを選べばいいかわからないときが多いですよね。そんなときのために、この辞典には用例を多く入れています。国語辞典は、言葉の意味を解説する語釈よりも、どんなときに使うかという用例が大事だと思うんです。
また、「歩く」「会う」「食べる」などといった、基本的な用語を、もうちょっと詳しく調べたいというときがありますね。これは、助詞や助動詞ともつながってきます。例えば、「先生に会う」と「先生と会う」では違います。そこで「〜に」「〜と」には、どんな傾向があるのか、ということを挙げていきます。 |
ATOK.com: |
語釈の傾向というのは、どうやって整理していくのですか? |
矢澤: |
もっと典型的な例でいうと、「壁にぶつかる」ことはあっても、「壁とぶつかる」ことはまずないですね。つまり「〜にぶつかる」のは止まっているものにぶつかる、「〜とぶつかる」は互いに動いていてもかまわない。「に」は着点、「と」はいっしょに動作をするというように、いろいろな例を出しながらパターン化していくわけです。そして、じゃあ「会う」の場合にはどうなるんだろうか、という語釈に入っていきます。
ひとつの語釈をする場合には、いろいろなパターンを挙げて、その中で個別に落としこんでいく。あくまで全体と部分を常にみながら、語釈を考えます。 |
ATOK.com: |
膨大な量の使用例があると思うのですが、それはどうやってパターン化するのでしょう? |
矢澤: |
誰もが納得する語釈を付けるには、たくさん使用例を出さなくてはなりません。まず、明治時代から現代までの日本の文学作品が検索できるデータ集を使います。また、人の感覚も重要なので、いろいろな人に聞いてみたりもします。ある世代だけに偏らないように、いろいろな年代の人に聞くことも大事ですね。
先ほどの例だと「〜に会う」「〜と会う」とで、どちらが多く使われているんだろう、というのを検索する。そこで使用例が1000出てきたとしたら、そのうちの100あたりをランダムに見て語釈の感覚を作り、自分でいくつかのパターンに分けて、残りもそれで処理できるかというのを見ていく。だから、1日で3項目ぐらいしかできません。はかどって10項目ぐらいです。 |
ATOK.com: |
先ほど語釈より用例が大事、とありましたが、用例はどのように挙げているのですか? |
矢澤: |
編者や編集委員が独自に考えています。気を付けているのは、あまり奇をてらわず、できるだけ典型的なものを挙げるようにしていることですね。ただ、編集委員がちょっと遊んでいるところもありますが(笑)。 |