みぢかな日本語

3月になりました。飛び交う花粉、無限の鼻水の方もいらっしゃるかとは思いますが、心躍る春。特に何の根拠もなく、わくわくする季節です。新しい出会い、新しいプロジェクト、新しい役職…その一方で緊張感も高まるもの。そんなあなたに癒しの言葉をお届けするのが、今回の企画です。

「あなたを癒したこんな言葉」で募集したところ、たくさんの投稿をいただきました。

●Vol.4
「冷え切った身体と心にしみ入る─癒しの言葉─」

とかく人間は不安なものです。仕事がうまくいかなかったり、身体の調子が悪かったり、一度不安に思うと、ネガティブスパイラルに落ち込みます。

そんなときに、こんな一言。

「わからなかったら聞いてください。どんなことでもいいですよ。いつでもいいですよ。同じことを何回聞いてもいいですよ」

アキレス腱を切って入院中に、手術前に婦長さんから言われた言葉だそうです。とても心細くなっているときに言われると、どんなにか安心することでしょう。「そんなことわかるでしょう」「今忙しいから」「さっき言ったでしょう」と言われることを心配しなくてよいのです。

その言葉、よく会社で言ったり言われたりしてる…というあなた。上司から説教をくらわない日はない、部下にちくちく言わない日はない、という関係は不毛です。

はがゆい部下への一言は、これで十分。

「まず、行動してみよう。だめなら、次の行動を考えよう」

上司曰く「できない理由を考えるより行動する。失敗したら次の行動にうつればよい」。きっと上司も昔、さらにその上の上司に言われたであろう伝統を感じるお言葉。こうして名言は脈々と引き継がれていくのでしょう。

次は泣かせの一言。

「一生懸命やっているその姿がうれしい」

さらにトドメのイッパツ。

「失敗しても全責任は私が取るから、続けて全力を出してくれ」

人生で一度はこういうセリフを吐いてみたい、と思っている男子は多いはず。実際に全責任を取ることになってしまったときのことは、誰も考えていないでしょう。でも部下に安心感を与え、かつ自分の株を上げる、武士道感あふれる美しい言葉です。

しかし現実には、たとえ上司が全責任を取ってくれたとしても、トラブルはつきもの。手探りで解決案を練るも五里霧中。暗く長い闇夜が続きます。

そんなときの定番フレーズ。

「明けない夜はない」

定番ですが真実です。先ほどの上司のように全責任が取れない場合は、このフレーズで逃げるのも一手です

もっと正直にいきたいのに、なかなか言い出せないのが「上の者」のつらさ。

朝の会議で上司に必要以上に怒られて1日中悶々と過ごしていたら、夕方になって上司に呼ばれて新しい仕事をふられ、「この仕事は君の好きにやっていいから」と言われ、部屋を出ていこうとしてドアノブにふれたときに「今朝は悪かった」と、小さーーい声で言われた。しょうがない人だなあ、と思った。

部下にしょうがないと思われている上司。渾身の力をこめて、あやまってみたのに、上司も形無しです。でも部下はその小さい声に癒されていますよ

若い女子社員をめろめろにしている、罪な方もいらっしゃいます。

必要最低限のことしか発声しない上司がいて、仕事をふるときも説明不足がちなのですが、彼は彼なりに気をつかっているらしく、残業が多くなったり、仕事の出来がよかったりすると、背後からぼそっと「お疲れ」と言ってくれます。私個人だけに言ってくれているような気がして、この一言が聞きたいがために仕事に励んでいます。

真似しようと思っているあなた。普段無口じゃないと効果はありませんよ

なんだかんだ言っても上司は責任を取ってりゃいいんだよ、と思っていても、時には上司を癒してあげましょう。

1週間ほどキツい仕事が続いて、なんとか片づいた金曜日。でも夜遅くなってしまって駅の近くの焼鳥屋さんしか開いてなくて、部下の若い女の子を連れていったのですが、「苦しい仕事の後のイッパイは美味しいですね!」と、こぼれんばかりの笑顔で言われました。一応部下の慰労のはずが、自分が癒されました。

いつもは、反抗ばかりしている入社2年目の部下(男性)が、めずらしく言われた通りのことをして、結果が出たので褒めた。ちょっとうれしそうな顔をして「僕も部長に似てきましたから」と言われ、ほろ苦い心地よさを感じた。

反対に、上司に限らず会社関係の人に言われると逃げられず、あきらめるしかなくなる一言があります。

たとえば

「今夜は徹底的に飲もう」

でも、時と場合によっては力の源になることも。この投稿者も「できる限りの手は尽くした。くよくよ考えてもしょうがないし、何の解決にもならない」と言われた後にこの一言を言われて、気が楽になったようです。

そうやって毎晩「徹底的に」飲んで帰ってくるお父さん(またはお母さん)を温かく迎えてくれるのは、やはり家族。投稿も多くいただきました。

基本の一言はこれ。

「お帰り」

仕事で疲れて帰ってきたときに、家族が笑顔で迎えてくれる。ホッとします」とのこと。

また出勤の前には、この一言。

「お父さんがんばってね!」

つきなみですが、古今東西、愛する我が子からの励ましの言葉で力が出ない人はいないでしょう!」。そうです。他に何もいりません。

毎朝子供を起こすのが日課のお母さんもいると思いますが、子供に起こされるお母さんもいます。

寝不足でなかなか起きられない私に愛娘(3歳)が、私の背中を「がんばれペン!!」とたたいて起こしてくれて、その後に「これで勇気100倍だね!」。まさにその通り。仕事がんばってます。

子供に癒されるのは親なら誰しも経験があるでしょう。写真を持ち歩いたり、携帯の待ち受け画面にしたりしても、やはり肉声は心にしみ入ります

その一方で、やはり母は強し!!

今回一番多かったのが、母の言葉です。

子供が湿疹がひどくて大変だったときに、母から「あなた(が母親)だからこそ、(かけがいのない)この子が産まれてきたのだよ」と言われ、とても勇気づけられました。

身体の調子がすぐれず寝たり起きたりのとき、こんな自分が嫌で仕方なく怠けているのかもと落ち込んでいたときに、母に「元気になれば動きたくなる」と言われ、心が救われました。

仕事や家事・子育てを完璧にこなそうとして疲れていたとき、母に「あなたが一生懸命なのは、みんな知っているから、これ以上無理しなくてもいいよ」と言われました。誰にも(親にさえ)頼らない性格だったので、かなり気が楽になりました。

長男が不登校になったとき、母が「山より大きい獅子は出ない」と言って、心配しなくてもよいと言ってくれました。

強いです。獅子に負けない不動の山です。何にも代え難い、母の身体をはった愛を感じます。

もちろん、父も負けていません。

家計が逼迫して厳しくなったときや、精神的に落ち込んだりしていたとき、今は亡き父は「今が一番幸せ」と、家族七人を前によく言っていました。

家族が一緒にいることこそが、一番大切だということを身にしみている父の言葉です。

癒し、癒される言葉は、人や状況によって変わるもの。本当に相手のことを思った言葉なら、心に響くはずです。こねくり回した虚飾の言葉よりも、そのときに感じたそのままの言葉をぶつけてみましょう。春の新しい出会いが、幸多からんことを。

 次回は「他の件でも宜しくお願い致しますって書きますか?─漢字の使用、取捨選択」Part 1をお届けします。

ATOK 2008 for Windows 体験版ダウンロードはこちら
●Vol.4
「冷え切った身体と心にしみ入る─癒しの言葉─」

 



update:2004.03.04