みぢかな日本語

4月は、新しい環境になった人もそうでない人も、なんとなく心改まる季節。身に合わないスーツを着てギクシャクしている新人さんを見るにつけ、ああオレも汚れちまった…と目が遠くなっている人はいませんか。ふだんと同じ調子で「これ、なるはやでゼロックスおねがい!」と叫んで、新人さんが固まっていませんか。今回は、これってウチの会社だけしか通じないかも…という言葉のご紹介です。

●Vol.6
「『これって弊社マターですか?』
─わが社のビジネス用語大集合!─」Part 1

どこの会社にもあるホワイトボード。左に社員の名前が書いてあって、まん中に行き先を書いて戻りの予定時間を右端に書く、あれです。じつはこのボード、社内用語の宝庫です。たとえば

O.O.T.O
(業種:ソフトウェア)

おおっと? それとも顔文字? いえいえ、「Out Of The Office」の略で「外出します」のことだそうです。何もそんなに難しく考えなくても、ただ一言「外出」と書けばよいものを。その外出があまり仕事がらみのものではなくて、ほんのり良心が痛むときに、ちょっと暗号めかして書くのかもしれません…。

立ち寄り
(業種:製造業)

微妙です。いったいどこに立ち寄ってるんだ? と部内みんなが思うはずです。「朝、直接取引先に向かうこと」の意味だそうですが、だったらその取引先の名前を書けばいいじゃん、って思いますよね。

NR
(業種:広告)

戻り予定時間の欄にこうあったら「戻りません」という意味。「ノーリターン」の略です。夕方4時くらいにこう書いて O.O.T.O って理想です。間違っても「酒を呑むから」戻らないのではなく、「仕事が長引くから」戻らないんです。どっちでも一緒って場合もありますが。諸先輩方、新人に差をつけたいときは「N」の右の棒と「R」の左の棒を一緒にして、一筆書きしてみましょう。

業種独特の言葉、というのも多数ありました。たとえば、ソフトウェア関連。

蹴り上げる、どつき回す、殺す

蹴り上げ」られた上に「どつき回」されて、終いには「」されるんですよ? なんと恐ろしい。これはそれぞれ、「実行、起動する」「複数のプログラムを起動する」「プログラムを終了させる」の意味だそうです。なんだか親のカタキみたいな扱いを受けていますね。不憫なり、プログラム。

カットオーバー

物事を始めること」の意。使用例はこんな感じです。

「このシステムのカットオーバーは、来月末だったよね」

「えっ? そんなの聞いてません。まだ仕様だって決まってないじゃないですか!」

投稿者はきっと、ほぼ毎日こんなやりとりをしているであろう臨場感があります。でもたとえ仕様が決まっていなくとも、カットオーバーしなくてはならないのが世の常。

そこでまずは

アサイン

要員を確保する」のです。そして

アドミ

事務処理」をして

キック

コンピュータのサーバに入って、何かの処理をし」たりするわけです。処理の途中で、にっちもさっちもいかなくなっても

えいやぁー

と「勢いをつけて仕事をかたづけ」れば、なんとかなるものです。そして、めでたく

サービスイン

コンピュータシステムの本番稼働を開始してお客様が利用を始める」日を迎えるのです。ときどきは

キックオフ

半期に一度行われる会合や飲み会」をして慰労される。そしてまた、仕様も決まっていないシステムをカットオーバーする…おつかれさまです。

さすがソフトウェア関連、カタカナが多いなあと思いきや、「えいやぁー」なんて耳慣れないかけ声調の言葉もあったりして、奥深いですね。

他では使わないであろう、業界独特の言葉をいくつか紹介します。まずは、歯科医師さんから。

シーラちゃん

虫歯の予防のために、もともとある溝を埋めること」だそうです。いったいどういう経過をたどって、こんなお人形のようなネーミングになったのか、ぜひ聞いてみたいところです。

人形といえば、人形司の方からいただいた、意味ありげな一言。

おばけ

規格品より大きい商品」。なんだか、とてつもなく巨大な人形(ひとがた)を想像してしまいます。

おばけといえば、

幽霊
(業種:電器メーカー)

休暇届を出しているのに、実際には会社に来て仕事をしている人」のこと。じゃあ届けなんて出さなきゃいいじゃん、とはいかないのが苦しいところです。しかも休暇届を出してまで仕事をしているのに、おばけ呼ばわりされて…。

同じ電器メーカーの方から

死亡

というのもいただきました。「レーザーが壊れること」。

さらに連続してレーザーが壊れること

連続殺人事件

というそうです。こうなると、もはや神に頼りたくなるところですが、この会社では

神様

は「測定の基準となる計測器」のことだそうです。

使用例としては

○○課の電圧計を「神様」として、データを校正する。

とあります。もうなんだか想像を超えた細かい世界になってきました。

さらに上をいくのが

ミリミリやる

航空機開発のお仕事をしている方からです。およその想像はつきますね。「細かいことに気をつけて仕事を進める」ことです。計器は正しく動作しているか、ボルトはしっかり締まっているか、亀裂はないか、という膨大なチェック事項を、大勢でミリミリとチェックしているんでしょうね。神経を使うお仕事とは思いますが、どことなく微笑ましい言葉です。

社内用語を見ていると、いろいろな職場で、いろいろな言葉が飛び交って、いろいろな企画や商品ができあがっているのが目に浮かびます。「ワイガヤ」(わいわい、がやがや話し合うこと)やりながら、ブレストブレインストーミング。企画会議などのことをいう)したり、グルイングループインタビュー)したり、その中から日本を揺るがす何かが生まれるかも?!

 次回は「『今日はサッサです』─わが社のビジネス用語大集合!─」Part 2をお届けします。お楽しみに!

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●Vol.6
「『これって弊社マターですか?』─わが社のビジネス用語大集合!─」Part 1

 



update:2004.04.16