新しい年も、はや2週間がたちました。年頭に誓ったあんなことやこんなこと、すでに忘却の彼方、なんてことはないでしょうか。
さて、昨年末に行いました「ATOK.com杯争奪 自分で作ろう国語辞典」コンテスト。とてもたくさんのユニークな作品をいただきました。「クール」という言葉に自分なりの語釈をつけてみよう、というものでしたが、ひとつの言葉に対して、人それぞれの解釈(思い入れ)があるようです。ちなみに、今回の優秀作品の賞品でもある『明鏡国語辞典』(大修館書店刊)によれば、
クール[cool]〈形動〉 (1)涼しくてさわやかなさま。冷たいさま。「─な色調」 (2)冷静で感情におぼれないさま。冷ややかなさま。「いつも─な人」「事態を─に受けとめる」
とあります。これをはるかに凌駕するリアリティあふれる作品を、さっそく紹介していきましょう。
●Vol.2 大活躍!−国語辞典・辞書に迫る− 「ATOK.com杯争奪 自分で作ろう国語辞典」コンテスト
まずは、「温度」と「人柄」をつなげた絶妙な作品から
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【語釈】 |
体感的温度の表現。hot>warm>cool>cold。転じて、性格的に冷静な状態 |
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【語釈】 |
寒くて凍りつくように、どんな場合や状況でも感情を表に出さずに振る舞うことができる表情や態度 |
【言い換え語】 |
能面のような、肝っ玉のすわった、動揺しない |
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英語のもともとの「温度が低い、冷たい」という意味が転じて、人の性格のことを形容する言葉になっていることが、端的に説明されています。思わず納得。
ところで「クールな人」から思い描く性格は、人によって違うようです。
「機械人間」呼ばわりされる一方で、「かっこいい」と持ち上げられる、この多種多様さ。「クールだね」と言われたとき、喜んでよいのやら微妙なところです。そして「優しい男の人のこと」とあるように、男性の形容詞の傾向があるようです。
なかでは、特定の人物を思い描いているとしか思えない作品もありました。
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【用例】 |
彼は、本当は女性のことが気になってしかたないのに、いつもクールな態度で気のない素振りを見せる |
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【語釈】 |
絶対に最初に発言せず、意見を求められても、自分に有利か不利かが明確にならないかぎり、態度を明らかにしない性格の人をいう |
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たぶん、この「クールな彼」のことは、あまり好きではないのでしょう。そこはかとない悪意を感じます。
でも、大多数には、ゾクゾクするほどの「あこがれ」の対象になっているようです。
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【語釈】 |
落ち着きを伴い、どこか知的な雰囲気を漂わす格好よさ |
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【語釈】 |
冷たいこと、冷静沈着なこと、転じて格好いいこと |
【用例】 |
このパソコンはデザインも使い勝手もクールだね |
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感情に左右されないことが粋だ、という風潮から、昨今よく使われる巻き舌風の
「ク〜ル」、または超を伴って「ちょーク〜ル」と発音される場合に転じてきて
いるようです。この意味も多種多様。
「宝くじが当たったんだよ」「それはクールだね」という用例の場合、どんな語釈をつけますか?
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【語釈】 |
物事が望ましい方向に進んだことを喜ぶ様子 |
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【語釈】 |
目を覚まさせてくれるデザイン。マンネリ状態から脱出するような出来事 |
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【語釈】 |
男の子のほめ言葉の総称。語彙の欠如を、この一言で補う。とりあえず間違いのない形容動詞 |
【言い換え語】 |
かわいい、ステキ、サングラスが似合う、お金持ち、黒ずくめ、または一転してダークスーツに身を固めている |
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この場合も、言われて喜んでばかりもいられないようです。
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【語釈】 |
人とは違ったファッション・思想を自分から情報発信するさまを、他人が評価する形容動詞。しかし少々ずれているところがあり、皮肉った表現にも使う |
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【語釈】 |
格好いい、もしくは格好いいという言葉を古くさいと思うアメリカかぶれの人が、粋がって使う |
【言い換え語】 |
格好いい、センスがよい、キマっている、アメリカのストリートファッションで固めている |
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そうかあ、皮肉だったのか、と思いあたるフシはないでしょうか。
そして、クールと言えば忘れてはならない、こんな商標もありました。
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【語釈】 |
室温5度前後で輸送・配達する宅急便サービスの略称 |
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これらを総括すると、こんな感じでしょうか。
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【語釈】 |
(1)冷たい、涼しいさま(雰囲気、人、物など) (2)冷静で落ち着いたさま (3)(新・俗)格好いい、イカしてるさま |
【言い換え語】 |
(1)冷たい、涼しい (2)冷静 (3)(旧・俗)ホット |
【用例】 |
(1)彼はクールだ (2)彼はクールだ (3)彼はクールだ |
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つまり「彼はクールだ」と言った場合、いろいろなニュアンスがあるということがわかる、秀逸な語釈です。
いかがでしたか? たかが一言、されど一言。いろいろな意味を自分なりに使いこなしてこそ、日本語の達人と言えます。コミュニケーションツールとしての日本語に、なお一層磨きをかければ、より幸運な年になるかもしれません。そんなあなたの傍に日本語入力システムATOK。本年も、ATOK.comとみぢかな日本語を、よろしくおねがいします。
次回は「今年こそはヒットを出す!ひと言が1億につながる!─ネーミングの日本語─」Part 1をお届けします。
文:屋敷直子(E.O.ワイズ)
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